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対立の世界 そして混乱の時代

瀧自慢|世界の脳幹にしみ込んだ酒

日本酒瀧自慢コロナ以降大混乱に陥っている世界。首脳陣も混迷を極め、国家間・民族間・人種間…ありとあらゆるところで騙し合いの様相を呈してきた。
挙句の果てにG7拡大構想なども持ち上がっている。議論で解決する時代は終焉し、同朋を取り込んで他者を攻撃する時代に移り変わったということか。

思えば、伊勢志摩サミットが開催された2016年はまだよかった。和気藹々とした雰囲気で話し合われた中に、ただ、感染症対策が重要議題として挙がっていたことには、今さらながら驚かされるが。
あの頃は、全てがまだ他人事だった。感染症など途上国問題だととらえ、援助に重心があったように思う。蓋を開ければ、欺瞞の中に問題が生じ、先進国での広がりは爆発的だった。
実際に問題が生じて思うのは、施策とは偽善に満ちたものなのではないかということである。

果たして、コロナ禍に対しても、政治が本当に力を発揮したのかと考えると、疑問符が付く。各国の死者数と行動制限の間には、期待するほどの相関関係は認められない。むしろ政治は、コロナ禍を支持者集めに利用し、ナショナリズムを拡大させた。日本酒瀧自慢
そして、それに対峙するかのように結束を固めたリベラリズム。自由の定義を怠ったまま、反発を糧にして広がる個人本意の排斥運動にまた、言い知れぬ危機感を覚えてしまう。

ニュースに疲れた今、時間を巻き戻そうと、伊勢志摩サミットで振舞われた「瀧自慢」を取り寄せてみた。赤目の瀧をモチーフにしたその日本酒は軽快ながらも、滝のように体に響く。
あの時の乾杯酒は、ひとを酔わせるのには十分すぎる。そして、人間、美味すぎるものばかり選択していては駄目だということを身に染みて思う。
今朝は激しい二日酔い。昼を過ぎても治まらぬ頭痛に、迎え酒をチビチビやって宙を見る。
「飲むべきものは酒じゃない。爪の垢でこそある。」
明日はまた、違う風が吹くのであろうが…

あぢさゐや仕舞のつかぬ昼の酒 岩間乙二

▶ 瀧自慢

日本一の人気酒

昭和の薫りを親父へと

越乃寒梅 灑|古くて新しい幻の日本酒

日本酒越乃寒梅国策で「三倍醸造」の日本酒が幅を利かせていた昭和の時代、本来の酒造りを貫き通した骨ある酒が「越乃寒梅」である。妙な甘ったるさの残る巷の酒とは明らかに違う飲み口が評判となり、昭和30年代後半に大ブレーク。一般市民には手の届かないものとなり、幻の酒と呼ばれるようになっていた。
当時の薫りを保つ酒が「白ラベル」と呼ばれる普通酒である。新橋あたりを歩いていると、店の隅にさりげなく置かれているのを見かけたりする。値段も手ごろになっていて、1本100円の焼き鳥などと一緒に注文したりするのだが、その名を口にする時には流石に背筋が伸びる。昭和生まれの者にとっては、それほどまでの効力を持つ。
ただ、業界が大きく変化する中、不変のラインナップで構える越乃寒梅には、やや面白みに欠けるところがあったのも事実。日本酒を飲むことを目的とした日には、目の前に置かれても敬遠していた。

2016年6月17日、そんな越乃寒梅に待望の新商品が出た。「灑(さい)」のラベルが貼られた涼しげなボトル。実に45年ぶりの新作となるそれは、酒蔵に吹く新しい風を物語っていた。越乃寒梅
4年経った今でも、この時期になると「灑」を求める。どっしりとした伝統の味わいの中にも、現代に通じる軽みがある。それはあたかも芭蕉句のよう。まさに不易流行の酒。この日本酒を飲む時には、松尾芭蕉の

酒のみに語らんかゝる瀧の花

の句を認めた水色のコースターを使用する。

そう言えば、越乃寒梅をこよなく愛する親父が、今にも街に繰り出そうとしている。「コロナにやられたら命はないぞ」と脅しても馬耳東風。今、妙案を思いついた。この酒を贈ろう。父の日に託けて。

▶ 越乃寒梅 灑

日本一の人気酒

甘い汁に群がる季節

仙禽かぶとむし|少年時代がよみがえる

日本酒仙禽のかぶとむし先日、西日本新聞のネット版に、緑風氏の記事を見た。緑風氏は佐世保の人で、俳句に勤しみながら、この四月に九十四の天寿を全うしたと。そして現在、遺作に御親族がイラストをつけてツイッターに上げているのだと。
その緑風氏の俳句に、

老人に買われてゆきぬ甲虫

があった。何かと批判の声もあるカブトムシの売買ではあるが、この俳句には目から鱗である。あたたかな気持ちにさせてもらった。

さて、自分も先日「かぶとむし」を買った。こちらのかぶとむしは、駅前にいる。例年この時期に、カラフルな衣装をまとって現れる。仙禽かぶとむし
「仙禽かぶとむし」。ドメーヌ化の魁となった栃木の名門「せんきん」が醸し出す銘酒である。

コンクリートジャングルを飛び交ったあとは、この酒の甘さが、特に五臓にしみわたる。冷やしたグラスに軽く注いで、ドライフルーツと一緒にちびちび飲めば、少年時代にタイムスリップ。
一日が自然に流れたアナログ時代。夜になれば暗さがあって、様々な生物がうごめいた。そんな中、懐中電灯を片手に飛び出して、目星をつけた樹木をチェックする。そうして捕まえたカブトムシを持ち帰り、親に自慢しながらラムネを空ける。
仙禽のかぶとむしは、あの時のラムネに似ている。

▶ 仙禽かぶとむし

日本一の人気酒

ほろ酔えば風薫る

風の森|維新のこころを醸し出す日本酒

日本酒風の森鴨神で名高い高鴨神社の近くに、風の森峠がある。この峠は天誅組が陣を敷いた場所で、それに加わった伴林光平が「夕雲の所絶をいづる月を見む 風の森こそ近づきにけり」の和歌をのこしている。
奈良から和歌山方面に抜ける峠付近は、水稲栽培発祥地とも目されており、初夏には爽やかな風が吹き抜けるとともに、清らかな水音に包まれる。その水は、銘酒「風の森」となる稲穂を育てる。

「風の森」は、地元御所市に蔵を置く油長酒造が醸し出す酒。酒に油長(ゆうちょう)とは悠長な響きであるが、芭蕉が「御命講や油のような酒五升」とも詠んでいるように、濃厚な酒の旨さを、江戸時代には油に譬えることがあった。
その酒造名に表れるとおり、油長酒造は、時代に合った美味い酒を研鑽し続ける酒造である。この「風の森」は、日本酒風の森平成10年(1998年)にブランド化され、全量無濾過・無加水・純米・生酒・しぼり華(華やかな味わいにする搾り方)を徹底。さらに2018年2月からは業界に先駆け、そのフレッシュ感を生かすために一升瓶を廃止し、720㎖瓶のみになったことでも知られている。

そんな風の森の看板商品「秋津穂」は、一般の日本酒とは異なる特徴を有する。それは、酒米ではなく飯米として開発された米を使用しているところ。にもかかわらず、酒米の王とも称される山田錦にも劣らない、いや、むしろそれをも凌駕する味わいを実現。
グラスに注げば、生酒の特徴とも言える細かな泡が立ち、爽やかな香りが辺りに広がる。口に含めば、軽やかな甘みが濃厚な旨味を包み込み、抜群のキレでもって喉を潤す。

享保4年(1719年)創業の油長酒造。ここに生まれた酒は、維新の志士に決起を促したものだと思う。
吉田松陰もかつて風の森に佇み、「風雨蓑笠を侵し 残寒粟を肌に生ず 春半ば和洲の路 花柳未だ詩に入れず 独り行くいわんや生路 墨子たまたま岐に泣く」と詠じた。晩年5月24日の出立の時に、松陰が詠んだとされる秘められた恋の句に

一声をいかで忘れんほととぎす

があるが、口遊むたびに初夏の風の森が思い出される。
この酒は、爽やかなこの季節に飲むべきだ。風が駆け抜けるような味わいに、体と心が熱くなる。

▶ 風の森

日本一の人気酒

夏が来れば思い出す日本酒

MIZUBASHO PURE|世界を相手にするため生ず

日本酒水芭蕉それほど大きな酒造ではないのだが、尾瀬の近くに蔵を構える永井酒造は、2017年の酒造業界を賑わせた。
2008年に瓶内二次発酵製法で MIZUBASHO PURE を生み出した蔵元は、2016年に「awa酒協会」を結成。2017年は、「awa酒」の認定がスタートしたのである。

「awa酒」とは、瓶内二次発酵を絶対条件とする発泡性日本酒のことで、認定を得るには、色味などの厳しい条件をクリアしなければならない。それまでも、発泡性日本酒には一定の需要があったが、ブランド化することにより、シャンパンに比肩する地位に上り詰めることを狙ったのである。
当時の日本酒業界は、需要減退に遭遇しながら、海外にチャンスを見出そうとしていた。と言っても、本格的に海外に進出するのではなく、海外における評価から国内需要を喚起するという方向性であった。日本酒水芭蕉
けれども、このawa酒協会設立の意気込みが、日本酒メーカーの意識を変化させた。今では多くのメーカーが日本酒の特徴ともいえる多彩な魅力をそれぞれに生かしながら、積極的に市場に打って出ている。市場の方でも、想像力豊かな日本酒が受け、海外においては、コンテストにおける日本酒部門の新設とともに、人気が急拡大しているのだと。

兎にも角にも、この日本酒「MIZUBASHO PURE」は革命の酒である。ボトルも世界を見据えたデザインを有しており、口に含めば、シャンパンに引けを取らない爽快感。まさに

水音のそこに生るる水芭蕉 稲畑汀子

の世界である。

水源に位置するこの日本酒。シャンパンの壁はまだまだ高くて分厚いが、流れ始めた勢いでもって、それを打ち崩すことができるものと信じてやまない。
いつしか世界の乾杯酒にならんことを!

▶ MIZUBASHO PURE

日本一の人気酒

旨い!妖怪の醸し出す日本酒

三芳菊|アマビエも日本酒造りに加わって

日本酒三芳菊四国の山中にある三好市は、鳥取境港と並ぶ妖怪たちの聖地である。ここに、三芳菊という風変わりな日本酒が生まれる。
初めて知ったのは、「残骸」という奇抜なラベルに彩られた奴だった。アニメチックな雰囲気を纏ったそれを、売れぬ商品の売名だろうと蔑視しながらも、店主の勧めるままに注文したことを覚えている。
口に運んだ時の衝撃は、今でも忘れない。フルーティーな日本酒といえば、通常は林檎やバナナや桃のようなものに例えられるが、しばらくは「何だ?」という混乱に陥った。
喉元を過ぎて余韻にひたる頃、体内に広がる温もりが柑橘の香を帯び始めた。その時悟った。これは、かの「時じくの香の木の実」であると。
時じくの香の木の実とは、古事記(垂仁記)に現れる不老不死の木の実である。それは橘であるとも言われ、たいへんな芳香を有していたと。

こんな、常識はずれの日本酒が生まれてくるのも、ここが様々な伝説に彩られた土地だからなのだろう。空海により結界の張られた場所に平家の落人が集い、独自の文化を育んだ。それは、魔のものとも交流する文化であった。日本酒三芳菊
三芳菊酒造のあるあたりには、数々の妖怪伝説が転がっている。特に有名なのは「子泣き爺」であるが、最近の世間の窮状に、各地から妖怪が集っているのかもしれない。その証拠に、最近「アマビエ」という日本酒が出た。
これも、人間の頭には理解し難いラベルが貼られているが、何でも「アマビエ」の札は、それ自体に病魔退散の効果があるという。

この闇の香に花蜜柑咲きしこと 稲畑汀子

▶ 三芳菊

日本一の人気酒

今年のウヅキはいつまで続く?

二兎|二兎追うものしか二兎を得ず

日本酒二兎この日本酒「二兎」のコンセプトは、「二兎追うものしか二兎を得ず」である。日本酒は、酒類の中で最も複雑な味わいを持つとも言えるが、その日本酒づくりには、狭量に陥らない幅広い視野が必要となる。
「二兎」は、相反する要素が複雑に絡み合い、絶妙のバランスの上に成り立っている。たとえばその旨み。旨みの勝った日本酒は、その酸味が抑えられてしまうものであるが、この日本酒は、口に含んだ時間の中で、旨味が酸味に変わりまた旨味へと変わりゆく面白みがある。
先日、二兎の丸石醸造では「純米大吟醸 雄町三十三 うすにごり生」の販売を開始した。二兎はまだ新しいブランドで、その責任者も、若さに溢れたパワフルな人物だと聞く。日本酒二兎それゆえか、新しい酒にはいつも、新鮮な驚きがついてくる。

さて、休みも中盤となったこの日。四合瓶を冷蔵庫から取り出し、透明なグラスに霞がかった液体を注ぎ込む。それは白兎を想わせ、晴れた空によく映える。
今日は、卯月に入って十一日目。今年は卯月がふたつある。つまり、閏四月のある年で、陰暦五月となるのは6月21日。二つめの兎を手に入れるのに、気が引けることもない有難さ。。。

散るものは散て気楽な卯月哉 正岡子規

▶ 二兎

日本一の人気酒

低アルコール酒を準備すべし!

残草蓬莱|低アルコール酒の草分け

低アルコール酒の残草蓬莱高濃度の酒は、消毒用に転用することが認められた。低濃度の酒では胃腸を消毒することもできないが、細胞を活性化し、元気を持続する効果がある。
その低アルコール酒(日本酒)の草分けとして知られるのが、神奈川の大矢孝酒造が醸す残草蓬莱である。残草蓬莱は「ざるそうほうらい」と読み、蔵の在所である「残草」を蓬莱に見立ててネーミングされている。

その残草蓬莱シリーズの中でも、特に人気の高い「Queeen」が、毎年この時期に顔を出す。これは、アルコール度が12度であることから、12番目のカード、則ちトランプのクイーンになぞらえている。
口に含めば、発泡感が心地よく、果実を口に含んだような爽やかさを覚える。昼からスイスイといっても、罪悪感を感じることのない軽やかな酒である。

この酒を手に取る時連想するのは、豊穣を占う神事だったとも言われる草摘み。摘み取った草を天ぷらにして、桃源郷を匂わせる瓶を傾けると、こんな俳句が頭を過る。

指先の傷やきのふの蓬摘み 能村登四郎

傷ならば、必ず癒えるものである。痛みの日々も思い出になる…

▶ 残草蓬莱

日本一の人気酒

利休道歌を実直に醸す

守破離|菜の花の酒蔵に生まれる伏見酒

松本酒造の守破離三大酒処のひとつ京都伏見に、松本酒造がある。新高瀬川沿いにある酒造場は、映画などにも度々登場するビューポイントで、特に菜の花の季節が素晴らしい。蕪村の「菜の花や月は東に日は西に」の句が、最も似合いそうな場所である。

その松本酒造のブランドに、「澤屋まつもと守破離」がある。「守破離(しゅはり)」は、利休道歌の「規矩作法守り尽くして破るとも離るるとても本を忘るな」から来たもので、独自の境地に立つにも基礎が重要であることを説いている。
ブランドを立ち上げたのは、幻の料理人として知られる松本庄平氏。料理人が開発しただけあって、ただ旨いだけの日本酒ではなく、料理によく合うものが、季節に応じて様々な顔をして登場する。

昨年のこの季節、「No Title」と名付けられた一本を空けて、

春の暮家路に遠き人ばかり 与謝蕪村

を体現した。今年は、ゴールデンウィークに向けてネットで注文。届いたら、「春の暮家に籠って飲むばかり」といこう。
因みに「No Title」は、課題が残っている酒であることを暗に示したもの。昨年と比べてどうなったか、楽しみなところである。

▶ 澤屋まつもと守破離

日本一の人気酒

疫病を退散させた神の酒

みむろ杉|日本を再生させた神社の門前酒

みむろ杉ろまんシリーズ 純米吟醸山田錦奈良の大神神社に祀られる神は、酒造の神として全国から崇敬されている。その門前で唯一酒を仕込んでいるのが、古い歴史を持つ今西酒造。
近年では多くの日本酒コンテストで受賞を重ね、メディアでも数多く取り上げられたことから、全国区の知名度を誇る酒造となった。中でも比較的新しいブランドである「みむろ杉ろまんシリーズ」は、その軽快な飲み口から幅広い年代の人気を集め、日本酒の新たな魅力を発信している。

ところで、この酒造神の真の姿を知る者は少ない。日本書紀を開くと、国が滅びてしまうほどの流行り病の中に顕れた神であると記されている。名は大物主。
大物主は、時の疫病を自らの意思であると告げ、祭祀の方法を夢に伝える。それは、現代につながる神道の起こりとも言えるもので、各地に散らばる神社の起源ともなって、病との戦いを終息させる。実に3年もの流行も、神の力で瞬時に抑えたのである。
それを喜んだ男が、「この神酒は我が神酒ならず 大和なす大物主の醸みし神酒 幾久幾久」と歌って酒を醸し出す。それこそが、人皇の世に初めて生まれた酒なのだ。

平和な世は、疫病の記憶よりも酒造のイメージを強くした。けれども、未曽有の災禍の前に、社も古代に立ち返り、懸命の祈祷が続けられている。捧げられるのは勿論、この御神酒。先人の句とともに、我も幽界に願い立てよう。

冷し酒夕明界となりはじむ 石田波郷

▶ みむろ杉ろまんシリーズ

日本一の人気酒