「旬の日本酒」カテゴリーアーカイブ

疫病を退散させた神の酒

みむろ杉|日本を再生させた神社の門前酒

みむろ杉ろまんシリーズ 純米吟醸山田錦奈良の大神神社に祀られる神は、酒造の神として全国から崇敬されている。その門前で唯一酒を仕込んでいるのが、古い歴史を持つ今西酒造。
近年では多くの日本酒コンテストで受賞を重ね、メディアでも数多く取り上げられたことから、全国区の知名度を誇る酒造となった。中でも比較的新しいブランドである「みむろ杉ろまんシリーズ」は、その軽快な飲み口から幅広い年代の人気を集め、日本酒の新たな魅力を発信している。

ところで、この酒造神の真の姿を知る者は少ない。日本書紀を開くと、国が滅びてしまうほどの流行り病の中に顕れた神であると記されている。名は大物主。
大物主は、時の疫病を自らの意思であると告げ、祭祀の方法を夢に伝える。それは、現代につながる神道の起こりとも言えるもので、各地に散らばる神社の起源ともなって、病との戦いを終息させる。実に3年もの流行も、神の力で瞬時に抑えたのである。
それを喜んだ男が、「この神酒は我が神酒ならず 大和なす大物主の醸みし神酒 幾久幾久」と歌って酒を醸し出す。それこそが、人皇の世に初めて生まれた酒なのだ。

平和な世は、疫病の記憶よりも酒造のイメージを強くした。けれども、未曽有の災禍の前に、社も古代に立ち返り、懸命の祈祷が続けられている。捧げられるのは勿論、この御神酒。先人の句とともに、我も幽界に願い立てよう。

冷し酒夕明界となりはじむ 石田波郷

▶ みむろ杉ろまんシリーズ

日本一の人気酒

花が散るとき側にある酒

花陽浴|春を惜しむための美味い日本酒

花陽浴純米大吟醸山田錦花が散るころ、この酒を探す。10年近く前にメディアに出てから入手困難になってしまった酒で、値段も非常に高騰してしまった。時間があれば、埼玉の酒蔵まで車を走らせるが、今年はそうもいかなかった。
酒の名前は花陽浴(はなあび)。その花陽浴の純米大吟醸山田錦。酒米の最高峰である山田錦を、40%まで磨き込んだ日本酒。最近になって色々な美味い日本酒が登場したが、この日本酒だけは特別だ。単に美味いだけではない。まさに花を思わせる芳香に、口に含めば甘酸っぱく広がる他の日本酒にはない特殊な深い旨味。
この時期の喜びは、桜の散る中でこの酒の詰まったブルーボトルを傾けること。けれども今年は、道の向こうの桜を窓越しに眺めながら、グラスを取る。

やはり美味い。今日は一杯だけやって、そして、冷蔵庫に。寝かせて3日待てば、また違った旨味が広がるから。これが、この日本酒の楽しみ方。
俳句も同じだ。即興で味わったものと日を置いたものでは、その趣に違いが生じる。松尾芭蕉の名句

さまざまのこと思い出す桜かな

を胸に酒を飲み、酔いが醒めて散り初める朝のように。

▶ 花陽浴 純米大吟醸山田錦

日本一の人気酒