みむろ杉|日本を再生させた神社の門前酒
奈良の大神神社に祀られる神は、酒造の神として全国から崇敬されている。その門前で唯一酒を仕込んでいるのが、古い歴史を持つ今西酒造。
近年では多くの日本酒コンテストで受賞を重ね、メディアでも数多く取り上げられたことから、全国区の知名度を誇る酒造となった。中でも比較的新しいブランドである「みむろ杉ろまんシリーズ」は、その軽快な飲み口から幅広い年代の人気を集め、日本酒の新たな魅力を発信している。
ところで、この酒造神の真の姿を知る者は少ない。日本書紀を開くと、国が滅びてしまうほどの流行り病の中に顕れた神であると記されている。名は大物主。
大物主は、時の疫病を自らの意思であると告げ、祭祀の方法を夢に伝える。それは、現代につながる神道の起こりとも言えるもので、各地に散らばる神社の起源ともなって、病との戦いを終息させる。実に3年もの流行も、神の力で瞬時に抑えたのである。
それを喜んだ男が、「この神酒は我が神酒ならず 大和なす大物主の醸みし神酒 幾久幾久」と歌って酒を醸し出す。それこそが、人皇の世に初めて生まれた酒なのだ。
平和な世は、疫病の記憶よりも酒造のイメージを強くした。けれども、未曽有の災禍の前に、社も古代に立ち返り、懸命の祈祷が続けられている。捧げられるのは勿論、この御神酒。先人の句とともに、我も幽界に願い立てよう。
冷し酒夕明界となりはじむ 石田波郷