「旬の日本酒」カテゴリーアーカイブ

夏が来れば思い出す日本酒

MIZUBASHO PURE|世界を相手にするため生ず

日本酒水芭蕉それほど大きな酒造ではないのだが、尾瀬の近くに蔵を構える永井酒造は、2017年の酒造業界を賑わせた。
2008年に瓶内二次発酵製法で MIZUBASHO PURE を生み出した蔵元は、2016年に「awa酒協会」を結成。2017年は、「awa酒」の認定がスタートしたのである。

「awa酒」とは、瓶内二次発酵を絶対条件とする発泡性日本酒のことで、認定を得るには、色味などの厳しい条件をクリアしなければならない。それまでも、発泡性日本酒には一定の需要があったが、ブランド化することにより、シャンパンに比肩する地位に上り詰めることを狙ったのである。
当時の日本酒業界は、需要減退に遭遇しながら、海外にチャンスを見出そうとしていた。と言っても、本格的に海外に進出するのではなく、海外における評価から国内需要を喚起するという方向性であった。日本酒水芭蕉
けれども、このawa酒協会設立の意気込みが、日本酒メーカーの意識を変化させた。今では多くのメーカーが日本酒の特徴ともいえる多彩な魅力をそれぞれに生かしながら、積極的に市場に打って出ている。市場の方でも、想像力豊かな日本酒が受け、海外においては、コンテストにおける日本酒部門の新設とともに、人気が急拡大しているのだと。

兎にも角にも、この日本酒「MIZUBASHO PURE」は革命の酒である。ボトルも世界を見据えたデザインを有しており、口に含めば、シャンパンに引けを取らない爽快感。まさに

水音のそこに生るる水芭蕉 稲畑汀子

の世界である。

水源に位置するこの日本酒。シャンパンの壁はまだまだ高くて分厚いが、流れ始めた勢いでもって、それを打ち崩すことができるものと信じてやまない。
いつしか世界の乾杯酒にならんことを!

▶ MIZUBASHO PURE

日本一の人気酒

旨い!妖怪の醸し出す日本酒

三芳菊|アマビエも日本酒造りに加わって

日本酒三芳菊四国の山中にある三好市は、鳥取境港と並ぶ妖怪たちの聖地である。ここに、三芳菊という風変わりな日本酒が生まれる。
初めて知ったのは、「残骸」という奇抜なラベルに彩られた奴だった。アニメチックな雰囲気を纏ったそれを、売れぬ商品の売名だろうと蔑視しながらも、店主の勧めるままに注文したことを覚えている。
口に運んだ時の衝撃は、今でも忘れない。フルーティーな日本酒といえば、通常は林檎やバナナや桃のようなものに例えられるが、しばらくは「何だ?」という混乱に陥った。
喉元を過ぎて余韻にひたる頃、体内に広がる温もりが柑橘の香を帯び始めた。その時悟った。これは、かの「時じくの香の木の実」であると。
時じくの香の木の実とは、古事記(垂仁記)に現れる不老不死の木の実である。それは橘であるとも言われ、たいへんな芳香を有していたと。

こんな、常識はずれの日本酒が生まれてくるのも、ここが様々な伝説に彩られた土地だからなのだろう。空海により結界の張られた場所に平家の落人が集い、独自の文化を育んだ。それは、魔のものとも交流する文化であった。日本酒三芳菊
三芳菊酒造のあるあたりには、数々の妖怪伝説が転がっている。特に有名なのは「子泣き爺」であるが、最近の世間の窮状に、各地から妖怪が集っているのかもしれない。その証拠に、最近「アマビエ」という日本酒が出た。
これも、人間の頭には理解し難いラベルが貼られているが、何でも「アマビエ」の札は、それ自体に病魔退散の効果があるという。

この闇の香に花蜜柑咲きしこと 稲畑汀子

▶ 三芳菊

日本一の人気酒

今年のウヅキはいつまで続く?

二兎|二兎追うものしか二兎を得ず

日本酒二兎この日本酒「二兎」のコンセプトは、「二兎追うものしか二兎を得ず」である。日本酒は、酒類の中で最も複雑な味わいを持つとも言えるが、その日本酒づくりには、狭量に陥らない幅広い視野が必要となる。
「二兎」は、相反する要素が複雑に絡み合い、絶妙のバランスの上に成り立っている。たとえばその旨み。旨みの勝った日本酒は、その酸味が抑えられてしまうものであるが、この日本酒は、口に含んだ時間の中で、旨味が酸味に変わりまた旨味へと変わりゆく面白みがある。
先日、二兎の丸石醸造では「純米大吟醸 雄町三十三 うすにごり生」の販売を開始した。二兎はまだ新しいブランドで、その責任者も、若さに溢れたパワフルな人物だと聞く。日本酒二兎それゆえか、新しい酒にはいつも、新鮮な驚きがついてくる。

さて、休みも中盤となったこの日。四合瓶を冷蔵庫から取り出し、透明なグラスに霞がかった液体を注ぎ込む。それは白兎を想わせ、晴れた空によく映える。
今日は、卯月に入って十一日目。今年は卯月がふたつある。つまり、閏四月のある年で、陰暦五月となるのは6月21日。二つめの兎を手に入れるのに、気が引けることもない有難さ。。。

散るものは散て気楽な卯月哉 正岡子規

▶ 二兎

日本一の人気酒

低アルコール酒を準備すべし!

残草蓬莱|低アルコール酒の草分け

低アルコール酒の残草蓬莱高濃度の酒は、消毒用に転用することが認められた。低濃度の酒では胃腸を消毒することもできないが、細胞を活性化し、元気を持続する効果がある。
その低アルコール酒(日本酒)の草分けとして知られるのが、神奈川の大矢孝酒造が醸す残草蓬莱である。残草蓬莱は「ざるそうほうらい」と読み、蔵の在所である「残草」を蓬莱に見立ててネーミングされている。

その残草蓬莱シリーズの中でも、特に人気の高い「Queeen」が、毎年この時期に顔を出す。これは、アルコール度が12度であることから、12番目のカード、則ちトランプのクイーンになぞらえている。
口に含めば、発泡感が心地よく、果実を口に含んだような爽やかさを覚える。昼からスイスイといっても、罪悪感を感じることのない軽やかな酒である。

この酒を手に取る時連想するのは、豊穣を占う神事だったとも言われる草摘み。摘み取った草を天ぷらにして、桃源郷を匂わせる瓶を傾けると、こんな俳句が頭を過る。

指先の傷やきのふの蓬摘み 能村登四郎

傷ならば、必ず癒えるものである。痛みの日々も思い出になる…

▶ 残草蓬莱

日本一の人気酒

利休道歌を実直に醸す

守破離|菜の花の酒蔵に生まれる伏見酒

松本酒造の守破離三大酒処のひとつ京都伏見に、松本酒造がある。新高瀬川沿いにある酒造場は、映画などにも度々登場するビューポイントで、特に菜の花の季節が素晴らしい。蕪村の「菜の花や月は東に日は西に」の句が、最も似合いそうな場所である。

その松本酒造のブランドに、「澤屋まつもと守破離」がある。「守破離(しゅはり)」は、利休道歌の「規矩作法守り尽くして破るとも離るるとても本を忘るな」から来たもので、独自の境地に立つにも基礎が重要であることを説いている。
ブランドを立ち上げたのは、幻の料理人として知られる松本庄平氏。料理人が開発しただけあって、ただ旨いだけの日本酒ではなく、料理によく合うものが、季節に応じて様々な顔をして登場する。

昨年のこの季節、「No Title」と名付けられた一本を空けて、

春の暮家路に遠き人ばかり 与謝蕪村

を体現した。今年は、ゴールデンウィークに向けてネットで注文。届いたら、「春の暮家に籠って飲むばかり」といこう。
因みに「No Title」は、課題が残っている酒であることを暗に示したもの。昨年と比べてどうなったか、楽しみなところである。

▶ 澤屋まつもと守破離

日本一の人気酒

疫病を退散させた神の酒

みむろ杉|日本を再生させた神社の門前酒

みむろ杉ろまんシリーズ 純米吟醸山田錦奈良の大神神社に祀られる神は、酒造の神として全国から崇敬されている。その門前で唯一酒を仕込んでいるのが、古い歴史を持つ今西酒造。
近年では多くの日本酒コンテストで受賞を重ね、メディアでも数多く取り上げられたことから、全国区の知名度を誇る酒造となった。中でも比較的新しいブランドである「みむろ杉ろまんシリーズ」は、その軽快な飲み口から幅広い年代の人気を集め、日本酒の新たな魅力を発信している。

ところで、この酒造神の真の姿を知る者は少ない。日本書紀を開くと、国が滅びてしまうほどの流行り病の中に顕れた神であると記されている。名は大物主。
大物主は、時の疫病を自らの意思であると告げ、祭祀の方法を夢に伝える。それは、現代につながる神道の起こりとも言えるもので、各地に散らばる神社の起源ともなって、病との戦いを終息させる。実に3年もの流行も、神の力で瞬時に抑えたのである。
それを喜んだ男が、「この神酒は我が神酒ならず 大和なす大物主の醸みし神酒 幾久幾久」と歌って酒を醸し出す。それこそが、人皇の世に初めて生まれた酒なのだ。

平和な世は、疫病の記憶よりも酒造のイメージを強くした。けれども、未曽有の災禍の前に、社も古代に立ち返り、懸命の祈祷が続けられている。捧げられるのは勿論、この御神酒。先人の句とともに、我も幽界に願い立てよう。

冷し酒夕明界となりはじむ 石田波郷

▶ みむろ杉ろまんシリーズ

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花が散るとき側にある酒

花陽浴|春を惜しむための美味い日本酒

花陽浴純米大吟醸山田錦花が散るころ、この酒を探す。10年近く前にメディアに出てから入手困難になってしまった酒で、値段も非常に高騰してしまった。時間があれば、埼玉の酒蔵まで車を走らせるが、今年はそうもいかなかった。
酒の名前は花陽浴(はなあび)。その花陽浴の純米大吟醸山田錦。酒米の最高峰である山田錦を、40%まで磨き込んだ日本酒。最近になって色々な美味い日本酒が登場したが、この日本酒だけは特別だ。単に美味いだけではない。まさに花を思わせる芳香に、口に含めば甘酸っぱく広がる他の日本酒にはない特殊な深い旨味。
この時期の喜びは、桜の散る中でこの酒の詰まったブルーボトルを傾けること。けれども今年は、道の向こうの桜を窓越しに眺めながら、グラスを取る。

やはり美味い。今日は一杯だけやって、そして、冷蔵庫に。寝かせて3日待てば、また違った旨味が広がるから。これが、この日本酒の楽しみ方。
俳句も同じだ。即興で味わったものと日を置いたものでは、その趣に違いが生じる。松尾芭蕉の名句

さまざまのこと思い出す桜かな

を胸に酒を飲み、酔いが醒めて散り初める朝のように。

▶ 花陽浴 純米大吟醸山田錦

日本一の人気酒