「俳句」タグアーカイブ

蜻蛉のはなし

とんぼラベル|郷愁を誘う勝虫

とんぼラベルと俳句蜻蛉は古語で「秋津(あきづ)」という。恐らく「秋」に「出ずる」がくっついたものだろう。古事記に、雄略天皇が吉野宮御幸の折、蜻蛉が腕に噛みついた虻を捕まえて飛び去ったことから、国名に勇敢なるその名を負わせ、「蜻蛉島(あきづしま)」と呼んだとある。
古事記に8年遅れて成立した日本書紀においては、初代神武天皇の項で、国見の折に「蜻蛉の臀呫(となめ)の如」と国を形容したとある。つまり、国の形が蜻蛉の尾つながりのような形をしているところから、初めて大和の国に「蜻蛉島」の名がついたと。

俳句で詠まれる蜻蛉は、季節柄、たいがいはアカネトンボであり、その一種、アキアカネである。アキアカネは、赤とんぼの代表種で、正岡子規が

赤とんぼ筑波に雲もなかりけり

と詠んだ、アレである。とんぼラベルと俳句田の神の使いであり、盛夏に山に赴き、収穫の季節になると赤く染まって戻ってくる、生命力の強い蜻蛉である。
子規は、日清戦争の最中にこれを詠み、勝虫とも呼ばれる蜻蛉の本意をとらえたのである。それは、「かげろう(蜻蛉)」に成り果てた生物の、復権の時であった。
しかし、勝利に酔いしれる時は短し。

夕焼小焼のあかとんぼ 負われて見たのはいつの日か
山の畑の桑の実を 小籠につんだはまぼろしか
十五でねえやは嫁にゆき お里のたよりもたえはてた
夕やけ小やけの赤とんぼ とまっているよ竿の先
(三木露風作詞 山田耕筰作曲)

童謡に馴染んだ現在、「赤とんぼ」の響きには郷愁がある。その郷愁をまとって開けるボトルは、蜻蛉ラベルで有名な「いずみ橋」。ほどよい苦みが、夏の疲れを忘れさせてくれる。

▶ いづみ橋 とんぼラベル
▶ 蜻蛉(末成歳時記)
▶ 赤とんぼ筑波に雲もなかりけり

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日本人の季節感を問う

チカーラ|夏の到来を告げるイタリアの蝉

三井の寿と俳句長い梅雨が明けると同時に猛暑の日々が始まり、朝から大音響で蝉が鳴く。特に、このごろ関東でも勢力を拡大しているクマゼミの鳴き声は、もはや公害級である。芭蕉も、この蝉の声を聴いては「岩にしみ入る」とは詠めなかったであろう。
そんな蝉の鳴き声を聞きながら眠た目をこすり、何気なく思ったのは、日本人の季節感のいい加減さ。夏の季語となる「蝉」は、立秋も過ぎて生き生きと鳴く。対して、秋の季語の「蜩」は、五月雨降る薄暗がりにカナカナと鳴く。

日本人は季節感を大切にするというが、そこに生じるのは観念が投影した季節。起承転結に対応させるように春夏秋冬を置き、その概念に呼応する事物を拾い上げるか、もしくは、そこに存在する事物にその概念を押し込んだ。結果、日本人は季節を愛でるようにはなったが、その感覚はどこか歪んでしまっている。
三井の寿と俳句
それに立ち向かったのが正岡子規。正岡子規の写生論は、単に文芸の一分野における挑戦ではなく、日本人の現実を無視した意識に、変革を促すものだったのではないかと思う。
が、子規の奮闘にかかわらず、今でも歳時記をめくると「???」がたくさん並ぶ。旧暦の時代にあってさえ二十四節気とのずれが生じていたのに、明治の改暦を経て、どうにも収拾がつかなくなってしまった。
今さら書き換えよと言っても無駄であろう。梅雨の最中に蜩が鳴いても、その声の聞こえる範囲は秋なのである。そんな矛盾に悩んでしまった時には、うまい酒を呷るに限る。

福岡の名門「三井の寿」で生まれる「Cicala」は、「チカーラ」と読み、イタリア語で「蝉」を指す。夏の限定酒として出荷され、ほどよいリンゴ酸の渋みが涼を呼ぶ。盃を重ねるほどに、おおいなる力(ちかーら)を与えてくれる旨酒である。
けれども、酔い伏して目覚める朝に秋を知る…

蜩や一日一日をなきへらす 子規

▶ 三井の寿 夏純吟 Cicala

▶ 蝉(末成歳時記)
▶ 蜩(末成歳時記)

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雨ニモマケズ

花の香|苦難にこそ香り立つもの

花の香またも熊本が襲われた。熊本地震では、あの赤酒がやられた。今回は球磨焼酎が、大きな痛手を受けていると聞く。日本酒党にとっても、九号酵母の故郷だけに、心配の種は尽きない。
そんな中、花の香酒造のホームページに、「営業再開」の文字を見てちょっと胸をなでおろす。

花の香は、明治35年に妙見神社所有の神田を譲り受けて酒造りを開始したという、由緒ある酒造。獺祭で修業した蔵元が送り出す日本酒は、盤清水という御神水と地元で自社栽培した米を用い、熊本の誇る9号酵母で醸し出される美味い酒。焼酎が幅を利かせる熊本にあってもその名は轟き、日本だけでなく、世界中の日本酒ファンを魅了している。
マケルナ熊本!

雨又も降りきし花火つゞけ打つ 星野立子

▶ 花の香
▶ 星野立子

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嫌われ者の夏

無風|知ればくせになる日本酒

無風「無風」と書いて「むかで」と読む。ラベルを見れば、手に取るのさえ躊躇われる酒。
出会いは場末の酒場。壁に貼られたメニューを目で追い、「むふう」と声を張り上げると出てきたのがコレ。もっきりで注がれた横に、店主が悪戯っぽく瓶を並べ、「もっと勉強しな」と笑ったのを覚えている。
しかし、どのようにしても「むかで」とは読めない。胸ポケットから取り出したペンで「百足虫」と書いて講釈を垂れると、店主は「同じじゃないか」と高笑い。「百足虫」だって、「むかで」とは発音できないと。さらに、

百足虫憎し一家の長の吾をさす

という百合山羽公の俳句を持ち出すものだから、こちらは何も言えなくなってしまった…日本酒無風

無風の夜は、あつかった。けれども、苛立ちの中で口にしたそれは意外---
「無風」のラベルは、前進しかできない百足虫にあやかり貼り付けられているという。その怪しい佇まいからは想像もできない奥深さをもつ酒。優しい甘さに満ちあふれた日本酒であった。

▶ 無風

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