低アルコール酒を準備すべし!

残草蓬莱|低アルコール酒の草分け

低アルコール酒の残草蓬莱高濃度の酒は、消毒用に転用することが認められた。低濃度の酒では胃腸を消毒することもできないが、細胞を活性化し、元気を持続する効果がある。
その低アルコール酒(日本酒)の草分けとして知られるのが、神奈川の大矢孝酒造が醸す残草蓬莱である。残草蓬莱は「ざるそうほうらい」と読み、蔵の在所である「残草」を蓬莱に見立ててネーミングされている。

その残草蓬莱シリーズの中でも、特に人気の高い「Queeen」が、毎年この時期に顔を出す。これは、アルコール度が12度であることから、12番目のカード、則ちトランプのクイーンになぞらえている。
口に含めば、発泡感が心地よく、果実を口に含んだような爽やかさを覚える。昼からスイスイといっても、罪悪感を感じることのない軽やかな酒である。

この酒を手に取る時連想するのは、豊穣を占う神事だったとも言われる草摘み。摘み取った草を天ぷらにして、桃源郷を匂わせる瓶を傾けると、こんな俳句が頭を過る。

指先の傷やきのふの蓬摘み 能村登四郎

傷ならば、必ず癒えるものである。痛みの日々も思い出になる…

▶ 残草蓬莱

日本一の人気酒

利休道歌を実直に醸す

守破離|菜の花の酒蔵に生まれる伏見酒

松本酒造の守破離三大酒処のひとつ京都伏見に、松本酒造がある。新高瀬川沿いにある酒造場は、映画などにも度々登場するビューポイントで、特に菜の花の季節が素晴らしい。蕪村の「菜の花や月は東に日は西に」の句が、最も似合いそうな場所である。

その松本酒造のブランドに、「澤屋まつもと守破離」がある。「守破離(しゅはり)」は、利休道歌の「規矩作法守り尽くして破るとも離るるとても本を忘るな」から来たもので、独自の境地に立つにも基礎が重要であることを説いている。
ブランドを立ち上げたのは、幻の料理人として知られる松本庄平氏。料理人が開発しただけあって、ただ旨いだけの日本酒ではなく、料理によく合うものが、季節に応じて様々な顔をして登場する。

昨年のこの季節、「No Title」と名付けられた一本を空けて、

春の暮家路に遠き人ばかり 与謝蕪村

を体現した。今年は、ゴールデンウィークに向けてネットで注文。届いたら、「春の暮家に籠って飲むばかり」といこう。
因みに「No Title」は、課題が残っている酒であることを暗に示したもの。昨年と比べてどうなったか、楽しみなところである。

▶ 澤屋まつもと守破離

日本一の人気酒

疫病を退散させた神の酒

みむろ杉|日本を再生させた神社の門前酒

みむろ杉ろまんシリーズ 純米吟醸山田錦奈良の大神神社に祀られる神は、酒造の神として全国から崇敬されている。その門前で唯一酒を仕込んでいるのが、古い歴史を持つ今西酒造。
近年では多くの日本酒コンテストで受賞を重ね、メディアでも数多く取り上げられたことから、全国区の知名度を誇る酒造となった。中でも比較的新しいブランドである「みむろ杉ろまんシリーズ」は、その軽快な飲み口から幅広い年代の人気を集め、日本酒の新たな魅力を発信している。

ところで、この酒造神の真の姿を知る者は少ない。日本書紀を開くと、国が滅びてしまうほどの流行り病の中に顕れた神であると記されている。名は大物主。
大物主は、時の疫病を自らの意思であると告げ、祭祀の方法を夢に伝える。それは、現代につながる神道の起こりとも言えるもので、各地に散らばる神社の起源ともなって、病との戦いを終息させる。実に3年もの流行も、神の力で瞬時に抑えたのである。
それを喜んだ男が、「この神酒は我が神酒ならず 大和なす大物主の醸みし神酒 幾久幾久」と歌って酒を醸し出す。それこそが、人皇の世に初めて生まれた酒なのだ。

平和な世は、疫病の記憶よりも酒造のイメージを強くした。けれども、未曽有の災禍の前に、社も古代に立ち返り、懸命の祈祷が続けられている。捧げられるのは勿論、この御神酒。先人の句とともに、我も幽界に願い立てよう。

冷し酒夕明界となりはじむ 石田波郷

▶ みむろ杉ろまんシリーズ

日本一の人気酒

花が散るとき側にある酒

花陽浴|春を惜しむための美味い日本酒

花陽浴純米大吟醸山田錦花が散るころ、この酒を探す。10年近く前にメディアに出てから入手困難になってしまった酒で、値段も非常に高騰してしまった。時間があれば、埼玉の酒蔵まで車を走らせるが、今年はそうもいかなかった。
酒の名前は花陽浴(はなあび)。その花陽浴の純米大吟醸山田錦。酒米の最高峰である山田錦を、40%まで磨き込んだ日本酒。最近になって色々な美味い日本酒が登場したが、この日本酒だけは特別だ。単に美味いだけではない。まさに花を思わせる芳香に、口に含めば甘酸っぱく広がる他の日本酒にはない特殊な深い旨味。
この時期の喜びは、桜の散る中でこの酒の詰まったブルーボトルを傾けること。けれども今年は、道の向こうの桜を窓越しに眺めながら、グラスを取る。

やはり美味い。今日は一杯だけやって、そして、冷蔵庫に。寝かせて3日待てば、また違った旨味が広がるから。これが、この日本酒の楽しみ方。
俳句も同じだ。即興で味わったものと日を置いたものでは、その趣に違いが生じる。松尾芭蕉の名句

さまざまのこと思い出す桜かな

を胸に酒を飲み、酔いが醒めて散り初める朝のように。

▶ 花陽浴 純米大吟醸山田錦

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