宝井其角が詠んだ酒の句
松尾芭蕉の一番弟子であり多才であったが、頻繁に吉原に通い、「放逸にして人事にかかはらず、常に酒を飲んでその醒めたるを見る事なし」と、俳家奇人談(竹内玄玄一1816年)にも語られる其角。「花見車」(1688年)には、大酒を飲んで裸で駆け回った酒の失敗談もある。其角の「草の戸に我は蓼食ふ蛍哉」の句を捩って、芭蕉は「朝顔に我は飯食う男哉」の句で、その奔放な生活を諫めている。15歳から飲み始めた酒が祟って、病に斃れたとも言われている。
十五から酒を飲み出て今日の月
もどかしや雛に対して小盃
内蔵の古酒をねだるや室の梅
酒くさき布団剥ぎけり霜の朝
冷や酒やはしりの下の石畳
時雨くる酔ひや残りて村時雨
手をあてて外から見たる酒の燗
世わすれに我酒かはむ姪がひな
暁の反吐は隣か時鳥
立つ年の頭を剃るは酒つけて
初雪や十になる子の酒の燗
朝こみや月雪薄き酒の味
到来をさあと云ふまま酒にして
闇の夜は吉原ばかり月夜かな
鹿の音をみちの酒屋にきくほどに
百姓のしぼる油や一夜酒
酒を妻妻を妾の花見かな
今朝たんと飲めや菖の富田酒
詩あきんど年を貪る酒債かな
紅葉には誰が教へけむ酒の燗
酒買ひに行くか雨夜の雁一つ
花に酒僧とも侘ん塩ざかな
猿のよる酒家きはめて桜かな
その花にあるきながらや小盃
花主も御酌に花を折る
花盛ふくべふみ見る人もあり
徳利狂人いたはしや花ゆくにこそ
名月や居酒飲まんと頬かぶり
菊の酒葡萄のからにしたみたり
大酒に起きてものうき袷かな
蝸牛酒の肴に這はせけり
琴を焼て水鶏を煮る夜酒さびし
いざくまん年の酒屋の上だまり
酒飯の飲酒は如何に寒念仏
酒ほかす舟をうらやむ涼み哉
曲水にあの気違は花碗哉
富士の雪蠅は酒屋に残りけり
酒熱き耳につきたるさざめごと
うち開く酒屋の庭に涼むらむ
かけ出の貝にもてなす新酒哉
足あぶる亭主にとへば新酒哉
酒くさき鼓うちけり今日の月
酒ゆえと病を悟る師走哉