昭和の薫りを親父へと

越乃寒梅 灑|古くて新しい幻の日本酒

日本酒越乃寒梅国策で「三倍醸造」の日本酒が幅を利かせていた昭和の時代、本来の酒造りを貫き通した骨ある酒が「越乃寒梅」である。妙な甘ったるさの残る巷の酒とは明らかに違う飲み口が評判となり、昭和30年代後半に大ブレーク。一般市民には手の届かないものとなり、幻の酒と呼ばれるようになっていた。
当時の薫りを保つ酒が「白ラベル」と呼ばれる普通酒である。新橋あたりを歩いていると、店の隅にさりげなく置かれているのを見かけたりする。値段も手ごろになっていて、1本100円の焼き鳥などと一緒に注文したりするのだが、その名を口にする時には流石に背筋が伸びる。昭和生まれの者にとっては、それほどまでの効力を持つ。
ただ、業界が大きく変化する中、不変のラインナップで構える越乃寒梅には、やや面白みに欠けるところがあったのも事実。日本酒を飲むことを目的とした日には、目の前に置かれても敬遠していた。

2016年6月17日、そんな越乃寒梅に待望の新商品が出た。「灑(さい)」のラベルが貼られた涼しげなボトル。実に45年ぶりの新作となるそれは、酒蔵に吹く新しい風を物語っていた。越乃寒梅
4年経った今でも、この時期になると「灑」を求める。どっしりとした伝統の味わいの中にも、現代に通じる軽みがある。それはあたかも芭蕉句のよう。まさに不易流行の酒。この日本酒を飲む時には、松尾芭蕉の

酒のみに語らんかゝる瀧の花

の句を認めた水色のコースターを使用する。

そう言えば、越乃寒梅をこよなく愛する親父が、今にも街に繰り出そうとしている。「コロナにやられたら命はないぞ」と脅しても馬耳東風。今、妙案を思いついた。この酒を贈ろう。父の日に託けて。

▶ 越乃寒梅 灑

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