酒の俳句|河東碧梧桐

河東碧梧桐が詠んだ酒の俳句

碧梧桐の俳句に、「子規居士の奮時を偲ぶ」の前書きで「故人こゝに在りし遺物と新酒かな」がある。
現在の酒都は、伏見・灘・西条と言われるが、昭和7年9月の「サンデー毎日」に広島の西条を「酒の新都」として碧梧桐が紹介したことも、西条の認知に一役買ったと言われている。
また、愛知の中埜酒造の五代目と懇意にしていた関係もあり、現在の中埜酒造の主力ブランドである「國盛」のラベルは、碧梧桐が揮毫したものとなっている。

旅にして昼餉の酒や桃の花
猿酒や炉火に埋む壺の底
瓶の酒尽きざらん春隣ればや
お前と酒を飲む卒業の子の話
どぶろくの境涯発句の天下かな
酔うことの許されて我正しき火鉢
玉子酒吐哺の境涯妻いふ夜
鼻焦がす炉の火にかけて甲羅酒
爐の側に信夫女と新酒かな
新走頼む人ともなく酔へる
松桂の雨蘭菊の露や猿の酒
この願ひ新酒の升目寛うせよ
師在らばと思ひ泣く夜の濁酒哉
貧の鬚伸びて濁酒を酌みにけり
茶店とも酒保とも雪の一軒家
新酒店紫苑が下の貝白し
故人こゝに在りし遺物と新酒かな
新蕎麦に句に酒に論に責めらるゝ
新蕎麦や殖林の山中の酒
甘酒のこぼれてあつし足の先
甘酒を買ひに来るなり女の子
人何処に酔を買ひ来し夏野かな
酒つぎこぼるゝ火燵蒲団の膝に重くも
どぶろくのあるじを以て我れ居らん
酒拭くに鯷の粟のこぼれかな
自炊子に酒の時ある鯷かな
西瓜船の酒菰のまゝ秋になるいく日を過ごす
勢田の句と乞はるれど如是に膳所新酒
有馬去りし口なれの卵酒もせず
君を壽す私の酒の柚味噌かな
吐せども酒まだ濁る瓢かな
首里城や酒家の巷の雲の峰
蒜掘て来て父の酒淋しからん
交りをかへまじき濁酒酌みにけり
山をやく相談のさけになるかな
酒を煮る酒のこぼれや竈の前
酒を置いて老の涙の火桶かな
草の戸に辰馬が新酒匂ひけり
養生の酒色に出づ宵の春

河東碧梧桐ゆかりの日本酒

【國盛】
大正9年(1920年)に、碧梧桐が中埜酒造の前身である丸中酒造を訪れ句会を催した際、「國とともに、ますます盛んなれ」と祈念し、「國盛」の文字を認めた。現在貼られている「國盛」のラベルは、碧梧桐の手によるものである。